博物館学芸員資格を取得する学生のなかには、将来の職業として学芸員を考えている人も多いかもしれません。
しかし、学芸員に就職するのははっきり言って大変困難で、狭き門だと言えるでしょう。
まず、求人がたいへん少ないのが学芸員の職です。しっかりと定期的に求人情報を確認し、応募できる求人を探さねばなりません。場合によっては、自分が住んでいる地域を離れることも積極的に考える必要があります。
また、学芸員の求人の条件はたいへん厳しく、学芸員資格に加えて専門知識に精通していることや、日常会話レベルの外国語の知識も求められます。
次に、倍率がとても高いのが学芸員の試験です。しかも、試験には何年も契約職員として経験を積んだ人材が応募してくることが多いため、それに張り合うだけの魅力を持っている必要があります。
ここまででも、十分に学芸員の職に就くことが難しいとわかるでしょう。
さらには、学芸員職に就いたのちにも苦境は多くあります。
学芸員職の求人のほとんどが有期契約雇用であり、年限が定められているものです。つまり、年限を過ぎた場合には退職ののち、就職活動をしなくてはいけません。
また、待遇もフルタイムでの勤務(館によっては日数が決まっている場合も)であるにもかかわらず、最低時給に毛の生えた程度の賃金で働くこととなります。2016年頃に出ていた上野の求人では決められた時間でフルタイムで働いても手取りが15万円を切るものがありました。
勤務時間も、館によってまちまちでしょうが展示の準備の期間など極端な長時間労働を強いられる場合もあります。
これは完全に管理人の私見ですが、勤務の内容と待遇を考えるとこれのみで生計を立てることは不可能に近いと言えるでしょう。つまり、職業としてほとんど成立していないのが学芸員という職業です。本当に理不尽なことだと思います。
正職員の学芸員の定年退職を機に、新規の募集を契約職員に切り替える組織もあると聞きます。
学芸員に就職できるのか?という表題の答えは「できない」ですし「おすすめできない」です。
ただ、それでも学芸員になりたい!という方のために、学芸員に就職して生計を立てていくための道筋を以下に示します。
ステップ①:学芸員職に関連したコネクションをつくる
「コネクションなんか簡単に作れないよ」と思う方もいるかもしれませんが、学芸員資格を取得しようとしているみなさんには大きなひとつのコネクションがあります。それが、大学です。
大学の学芸員課程には優先的に全国の自治体をはじめとする機関から求人情報が届きます。また、同課程で学芸員になったOB・OGから声がかかって個別に求人が来ている場合もあります。学芸員になりたい学生は大学の窓口に自分が学芸員志望であることを伝え、情報を優先的にもらうようにしてください。
また、博物館実習先では、館によっては実習をした学生にボランティアやアルバイトの声をかける場合があります。チャンスがあればそれを離さないのもひとつの手段でしょう。
在学中であれば、公募の出ている博物館での解説員などのアルバイトやボランティアを行うのもコネクションをつくるひとつの手段になるでしょう。夏休みだけの募集もあるので活用してください。
博物館と名のつく機関・あるいは博物館関連の施設に以上のような手段でコネクションをつくり勤務を始めるまでが第一ステップです。
ステップ②:実績をつくる
新卒採用での学芸員の採用はほとんどありません。なぜなら博物館施設は常に「即戦力」を求めており、自分の機関では育てるつもりが無いためです。
そのため、学芸員志望の人間は自力で実績を作り、能力を培う必要があります。
例えば、勤務してる機関で大きな展示に関わったり、キャプション作成や図録作成などに携わったりです。運良く図録や報告書に名前が載ることがあれば、大いに活用しましょう。展示解説などを行なった経験なども実績になるでしょう。
進学して大学院で勉強する場合には、論文などの実績を積むことも重要です。
また、先述したようにいま、博物館施設では英会話のできる人材を求めている傾向にあります。なかには広報なども行なってAdobe系のソフトウェアを使いこなして………本当にキリがない世界ですが、どうにか学芸員に就職できるまで経験を積むのがふたつめのステップです。
ステップ③:学芸員になる
学芸員職に就くことができた場合、次に必要になるのは自身のキャリアアップについて考えることです。任期のない正職員になった場合にはあまり意識しないことかもしれません。
大抵の場合、学芸員は契約職員であり任期がある勤務となるはずです。長くて3年、早くて半年でその任期は尽きてしまいます。
学芸員になったら、同時に転職活動が始まると言っても過言ではないのです。
自分が入ることになった館で得られる知識は出来るだけ得て、繋げるコネクションは繋げられるだけ繋ぎましよう。また、学芸員として残せる実績を出来るだけ残します。
次の転職活動で漏らさぬように、控えておくことも重要です。
第三のステップは、学芸員として残せる成果を任期のあいだにやり尽くすことです。
また、在職中に必ず次の求人を確認しておくようにしましょう。館によっては毎年募集をかけている館もあるためです(その分任期が短いですが)。
ステップ④:キャリアアップする
学芸員職で生計を立てることは学芸員職に就いた段階では終わりません。むしろ、学芸員職に就いた段階から生計を立てるための本当の活動が始まります。
イメージは雪の積もった斜面を転がっていく雪玉です。動き続けることができればだんだん大きくなることができますが、動くのをやめてしまえばそれ以上は成長せず凝り固まって生計の立たない状況に立たされてしまいます。
ステップ③の序盤で除外した、正規職員に雇用された学芸員の方たちも同様です。特に目に見える昇給があるわけでもなく、酷使される状態に耐えるのではなく、活路を見出し活動することが求められるでしょう。
これで、生計を立てられるところまで持っていくのが、このステップのゴールです。
本来なら、現職の学芸員が待遇を改善するためになにか活動をすべきことなのかもしれません。ただ、なぜだか学芸員は館より取り換えのきく存在として認知され、契約職員として雇われているため、待遇改善の交渉をした場合には自身の職さえ危うい状況にあります。現職の学芸員だった方の中でも、理不尽な理由で退職されている方もいるようです。
もはや個人の力ではどうにもならず、制度的な改善を待つよりほかはないのでしょうが、ひとまずは以上のような方法で足掻くことくらいはできるのではないでしょうか。